大判例

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名古屋高等裁判所 昭和26年(う)367号・昭26年(う)366号 判決

弁護人Aの控訴趣意第一点、弁護人Bの控訴趣意第一点第二点、弁護人Cの控訴趣意第一点、弁護人Dの控訴趣意第二点第三点について。

本件起訴状に記載された訴因の要旨は被告人小林練一は日本交通公社名古屋支社の経理係長として名古屋支社管内の事業予算、事業費支出、事業収支金の取扱等の業務に従事し被告人山田政平は同公社名古屋支社の総務課長として人事、庶務、経理の三係の長として各係を指揮監督する地位にあつたものであるが、被告人小林練一の所管事務である同公社名古屋支社管内の各案内所に於て取扱つた国有鉄道乗車券代売代金は月一回同支社に於て管内分を取纏め名古屋鉄道局に納付して居り其代金は十数日間同支社長の指定した取引銀行である東海銀行名古屋駅前支店及三和銀行名古屋駅前支店に支社長名義で通知預金として預入れ保管していたところ、被告人両名は共謀して密かに自己等のため他に流用の方法で有利に利用し所定の利息以外の利益を挙げて、之を利得しようと企て昭和二十二年十二月頃静岡銀行名古屋支店長内山憲治、同次長原静猪等との間に同人等をして預入金員を随時引出し使用せしめることを承諾の下に前示保管金を同銀行に預入れる約束を為し被告人小林に於て別紙明細表(起訴状明細表)記載の如く昭和二十二年十二月十三日から同二十三年九月三十日迄の間に十九回に亘りその業務上保管に係る日本交通公社所有の国有鉄道乗車券代売代金合計一億一千七百万円を孰れも擅に前記静岡銀行名古屋支店に通知預金名下に引渡し以て夫々横領したものであると云うのであるところ、之に対し原審は判示犯罪事実(要旨)として財産法人日本交通公社は国有鉄道との契約によりその乗車券の代売事業をも併せて行い同公社名古屋支社管内の案内所に於ける乗車券代売代金は約十日毎に公社本社(在東京都)の取引銀行に一括預金し右名古屋支社は公社本社から更に名古屋鉄道局に納付すべく送金した金員を一旦通知預金として名古屋市内の銀行に適宜預金し之を右鉄道局に納入して来たものであつて、被告人小林練一は右名古屋支社の経理係長として右預金事務を担任し、被告人山田政平は同支社の総務課長として右小林を指揮監督する地位にあり、従て被告人両名は右名古屋鉄道局に納付すべく公社本社から送金して来た前記金員を名古屋支社のため業務上占有していたものであるが被告人等は右預金が極めて多額であるに拘らず規定の小額の利息のみ支払を受け得るに過ぎず、該預金を他に貸付けるに於ては更に多額の収益を挙げ得るものと考え、昭和二十三年初頃静岡銀行名古屋支店長内山憲治との間に被告人両名に於て同銀行に対する公社名古屋支社の右通知預金の中から右内山憲治個人に貸付ける契約を為し、しかる上は内山から相当の謝礼を貰い受けることができるものとの期待の下に茲に両名共謀の上別紙明細表(原判決明細表)預金欄記載の右公社名古屋支社の同銀行に対する被告人両名の業務上占有に係る通知預金中から同明細表引出欄記載の通り昭和二十三年一月二十四日から同年九月二十五日迄の間前後十五回に亘り該預金を引出した上その都度之を擅に右内山憲治個人に対し貸付け以て之を横領したものであるとの事実を認定し之に刑法第二百五十三条第六十条第四十五条第四十七条第十条を適用して之を有罪とし、訴因中別紙起訴状明細表記載の1、2、6、9、12、15、17、19、の各預金預入につき被告人両名を無罪とする判決をしたこと、並原審訴訟手続上訴訟変更の手続の履践された事跡のないことは何れも本件記録上明かである。

然しながら右訴因と原審認定事実とを比照すると訴因に於ては被告人等が業務上占有中の日本交通公社所有の金員を静岡銀行名古屋支店に通知預金として預入れたこと自体を以て横領としているのに対し原判決認定事実に於ては被告人等が業務上占有に係る日本交通公社名古屋支社の預金を静岡銀行名古屋支店に対し預入れたことを横領とせず同銀行に預入れある名古屋支社の預金中から金員を引出した上内山憲治個人に対し貸付けたことを以て横領とし、訴因中静岡銀行名古屋支店に預金はしたが右内山憲治に対し貸付はせず従てそのための払戻をしなかつた点(別紙起訴状明細表記載の1、6、9、12、15、17、19)について被告人両名を無罪としていること、並訴因中別紙起訴状明細表3の昭和二十三年二月十三日金八百万円の預金預入横領に対し原判決は別紙原判決明細表2、3の記載のように同年一月十四日金四百二十六万四千円、同月二十一日金三百万円の各預金払戻行為を横領とし、又訴因別紙起訴状明細表記載の16、18の各預入横領に対し原判決は別紙原判決明細表記載の12、13と14、15との各預金払戻行為の横領を認定し各一個の横領罪の訴因に対し二個の横領罪の成立を認めて之を併合罪に問擬したことが明瞭に認められる。右のように訴因と原判決の認定とはその罪名に於て差異はないけれどもその犯罪の態容(方法)日時、金額、個数等に著しい相違があり具体的事実としては全然別異のものと認められるから、訴因としてはその同一性を欠くものと謂わざるを得ない、又被告人等に於てもその何れが訴因となるかによつてその攻撃防禦の方法を異にせざるを得ない。即ち若し原判決認定の事実が訴因であつたとすれば預金払戻による個人貸付の事実の有無、その行為者並被告人山田政平の共謀の認識の点等につき攻撃防禦の方法を構じたであろうけれども原審に於て被告人等は起訴状記載の訴因についてのみ攻撃防禦の方法を構じ原判決認定の事実について特に之に適応する防禦方法を構じたことの事跡は本件記録上からは認められない。原裁別所としては右のように訴因と異なる事実の認定を為さんとするには先づ刑事訴訟法第三百十二条に基き検察官に訴因の変更を促し又は命じて訴因変更の手続を履践した上でなければならないのに拘らず右の措置をとらず被告人に十分な防禦権の行使の機会を与えないで抜打的に訴因と異なる事実を認定し有罪の判決をしたことは判決に影響を及ぼすこと明かな訴訟手続上の法令違反があるばかりでなく亦審判の請求を受けない事実について判決をした違法があるもので原判決は到底破棄を免れない。論旨は理由がある。

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